富士通が45歳以上を対象にした割増退職金込みの条件で退職者を募集をしている件が話題になっていますが、別段珍しいことではなく、今までもあちこちの大手企業で行われてきたことです。ただ、この割増退職金を払える体力のあるところはどうしても大手に限られるので、大手ならではの制度とも言えます。

今回なぜか従来よりバズっている気がしますが、何なんでしょう。富士通というITリテラシーの高い会社(=従業員の積極的SNS利用率も高いと思われる)で、久しぶりに行われた施策なので、今まで「自分には関係ない」と思っていた若い世代が45歳近くに達してきて他人事ではなくなって騒いでいる…というところでしょうか。

富士通ではありませんが、私の勤務先でも過去何度となく行われてきて、外野から見るとリストラみたいに見えたかも知れません。しかし意外と辞めていく人は「待ってました」的な態度で割増退職金に飛びつくんですね。45歳を超えると同じ会社に勤めていてもポジションの個人差がとても大きくなります。


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・マネージャー級に昇進したが、異動があり新しい部署になった。異動先の部署の仕事がもう年齢的に覚えるのが辛くなり、部署ではマネージャーの自分が一番素人という状況で辛い。元々技術者上がりでマネージャーには向いていない。

・毎日が同じことの繰り返しで面白くない。このまま定年を迎えたら、自分の人生って何だったんだろうと思う。

・若い頃と違って会社でのしがらみが増えて、やりたいことだけをやっていれば良い訳ではなくなってきた。むしろ毎日ほとんどやりたくない業務で終わっている。自分はこんなことをするためにこの会社に入ったのか?

・単身赴任が長くて疲れた。自分が住んでない家(家族は住んでるけど)の住宅ローンを払うのにも疲れた。家族と一緒に暮らしたい。単身赴任でかかっている割増コストを考えたら、収入が下がってもトントン。

・機会があったら実家方面に帰って、今までの知見を生かして一花咲かせたい。

・大きな病気をして、出世レースから脱落した。年齢的に自分より後輩が、ちらほらと自分より上のポジションに就いている。病み上がりでポジションを追い上げる体力もないし、これから自分より若い人に使われる人生が待っていると思うと鬱だ。

・今の会社に貢献できている気がせず、肩身が狭い。

・独身、または、子供が居ない。今から結婚したり子供ができたりすることはないと考えているので、これからの人生にさほど高い給与は必要ない。

・元々そろそろ辞めたかったので、割増退職金は助かる。



こんな様々な事情で、「まとまった退職金が貰えるなら辞めたい」という声や、「なんで50歳以上なの?45歳とか40歳まで対象を拡大してよ」って声は意外とありました。

考えても見てください。割増退職金でざっくり住宅ローンはチャラにできるでしょう? いまの毎月の収支から住宅ローンがなくなったら、小さい会社に再就職して給料が2割くらい下がっても何とかなると思いませんか?


…というのが辞めて行く人のロジックなんですが、いくつか考えが甘いところがあって…

(1)転職して下がる年収は2割なんてのはレア物件であって、普通は45歳を超えた転職は年収4〜5割ダウンである。
(2)現役時代の給与水準が年金支給額に反映される制度を軽視しており、年金を含めた生涯収入金額のダウンを考えていない。


ということもあるにはあるのですが、上記(1)(2)がたとえ分かっていても「疲れた、もういいよ」という感じで辞めて行ってるように見えます。過去に見た私の周囲では。

残された方も業務のしわ寄せが来るわけで、「自由な生き方ができて、いいなぁ」と羨望のまなざし半分で見ているところもあるんですね。


なので、自分も若い頃「リストラ怖い」と思っていたことはあったんですが、いざ自分も同年代の同僚も対象年齢ど真ん中になると「辿り着けなかった生き方」へのワンチャンとして悪い選択肢ではないのかもなぁと冷静に捉えています。だって22〜24歳の昔の自分が描いた人生なんてたかが知れているでしょう? そろそろリタイヤに向けて軌道修正が必要な年頃ではありませんか? 75歳までできる仕事って今の仕事の延長線上にありますか?


そんなこと言っても私は年金までの収入低下を考えると現時点では募集がきても反応する気はないですが、4年後とかは分からないですね。大規模なM&Aとか行われそうなので、「どっちの道を選んでも辛い」のであれば、「少しでも辛くない方」を選びたいのが人情。それが割増退職金ルートということもあるでしょう。もっともM&Aのタイミングと割増退職金付きリストラのタイミングは通常重なりませんけどね。